
中川はご存じですか?
ちょっと変わった特徴を持つ、面白い河川なので、語らせてくださいな。

中川は、埼玉県羽生市から埼玉県東部、東京都東部を流れ、東京湾に注ぐ延長約81kmの一級河川です。
綾瀬川が合流してから東京湾まで、荒川放水路と並流しているため、勘違いされがちですが、実は荒川水系ではありません。
派川である新中川が、江戸川区江戸川でうっかり旧江戸川に合流してしまい、江戸川の支流扱いとなっているため、利根川水系です。

荒川放水路との並流部には、河川水面を唯一利用した、江戸川競艇場があります。観潮区間となっているため、舟券購入には潮の干満も慎重に考慮しなければいけませんね。
※江戸川競艇場に行ってみたので、読んでね!
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中川流域に生息する魚類も、河川の特性を良く反映しています。
支流の元荒川の水源は、もともと荒川扇状地からの湧水でしたが、現在は「熊谷市ムサシトミヨ保護センター」が汲み上げた地下水です。水質の良い冷水でしか生きられない絶滅危惧種、ムサシトミヨの唯一の生息地を守るためです。
また、中川と江戸川に挟まれた、中流域の埼玉県吉川市では、市を挙げてナマズ料理を推しています。吉川の川魚料理は「吉川に来て なまず うなぎ食わずなかれ」と謳われ、JR武蔵野線の吉川駅前には金のナマズ像「なまずの親子」が建つほどです。言わずもがなですが、ナマズは水質汚濁に強い魚種です。

と、ここまでつらつら書いてきましたが……中川の最も変わった特徴はズバリ、固有の水源をもたない河川、であることです!
普通の河川では、上流には山地や湖といった水源があり、そこからの流水を中下流で活用する、というのが一般的です。

ですが中川流域は、どこまでも広がる田園風景(言い過ぎか……)となっており、水源となる山や湖はありませんね。
そう、中川の水源は、農業用水の排水です。
その農業用水は、利根川に建設された利根大堰で取水され、それぞれの用水を通り、農地にやってきます。

ですので中川の流量は、利根大堰での農業用水の取水量により大きく変動します。
主な支流が合流した直下流の八潮市八条橋での中川の流量は、灌漑期は70㎥/sですが、非灌漑期は20㎥/sまで落ち込みます。
※八潮市、八条……そういえばこんな記事も書きました
amazingkantoplain.hatenablog.com
つまり、稲作に励む灌漑期は水面下だけれど、稲作をしない冬場は干上がった河川敷が、中川流域には広がっているわけです。

中川についての理解は深まりましたか?さて、ここからが本題です。
キタミソウってご存じですか?
もともとはツンドラに自生し、夏に2~3㎜程度の小さな花を咲かせます。北海道の北見地方で発見されたことから名づけられました。
ツンドラは、地下に永久凍土があるため、短い夏に地衣類やコケ植物、小さな草本などが生えるだけで、樹木は生育できない厳しい環境です。キタミソウは、このような環境にうまく適応した草本の一つです。
では、中川流域の河川敷の状況を思い出してみてください。稲作に励む灌漑期は水面下だけれど、稲作をしない冬場は干上がっていますね。
この短い冬場にパッと発芽、生長し、花を咲かせて種子を散布、灌漑期には種子の形で水面下で眠りにつく、というツンドラと同じライフサイクルの実現が(季節は逆ですが)、人為的に流量が変動する中川流域では可能なわけです。

ある年の12月に、生育地の一つ、越谷市の瓦曾根溜井へ探しに行ってみました。
瓦曾根溜井は、大落古利根川から取水し、八条用水など各方面に分水している、元荒川の旧河道を利用した農業用ため池です。
冬場はご覧のあり様です。この日は凶悪なオナモミ畑となっていたので、足を踏み入れるのに躊躇しました。
けれども、(比喩表現ではなく)よく目を凝らすと、咲いていました。


特異な河川環境に適応した可憐な花、見に行ってあげてね。
(参考)
・「埼玉県中川水系における農業用水の地域水循環と諸機能」農業農村工学会 68-2nakagawasuikei.pdf
・「千葉県および茨城県におけるキタミソウ(ゴマノハグサ科)の新産地」茨城県自然博物館研究報告 p045-050.pdf
・「利根川水系中川・綾瀬川河川整備計画の策定と点検について」(令和5年12月5日)国土交通省 関東地方整備局
・用水系統模式図 | 管理所概要 | 独立行政法人水資源機構 利根導水総合管理所