ムス○大佐…(AIイラストだよ)
10月1日は「日本酒の日」です。
秋は、日本酒に合う食材が出回るので、一献傾けたくなりますね。同時に、酒蔵に新米が届き、酒造りを始める季節です。
かつての酒造年度は10月1日〜翌9月30日でした。このことから1978年、日本酒造組合中央会は10月1日を「日本酒の日」と定めました。
そして日本酒の歴史について語るなら、必ず一度は立ち止まる場所があります。
兵庫県伊丹市、大阪平野の北西部に位置する郊外都市です。
しかし、かつてここは日本の酒文化を決定的に変えた場所でした。
伊丹市はココ(地理院地図を加工)
※伊丹市に関する別の記事
社長電撃辞任、前期減損6300億円……
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なぜ、伊丹は銘醸地として栄え、その後はシェアを落としたのか……今回はその理由を解き明かしてゆきたいと思います。
「日本酒の日」にふさわしいネタでしょ?
■なぜ伊丹は銘醸地となったのか
戦国時代に奈良の寺院が作っていた僧坊酒が衰退すると、酒造業は大坂近郊の「摂泉十二郷」で盛んになりました。
現在の代表的な銘醸地と言えば、真っ先に灘五郷を思い浮かべる人が多いと思います。もちろん灘も摂泉十二郷の範疇です。
ですが、ここでひとつ重要な事実があります。
江戸時代中期の1700年頃まで、現在の「灘五郷」 のルーツとなる「新三郷(灘目三郷)」 は酒造業に進出していません。
1660年時点の酒造株(幕府発行の製造許可証)の取得者は池田、伊丹、西宮、大坂等、旧九郷 の酒造家たちです。
▲ をまとめて「北在 」と呼ぶ(地理院地図を加工)
ではなぜ、群雄割拠の旧九郷の中で、伊丹酒は高いシェアと評価を得られたのでしょうか。
まず、技術力に裏付けされた品質です。
杜氏による寒造りの採用、木灰清澄法による沈殿、木綿布ろ過により、辛口(糖分が少なく傷みにくいので、長距離輸送に向く)の清酒醸造が可能となりました。
伊丹市鴻池は「清酒発祥の地」とされ、「丁稚が腹いせに灰を投げ入れたら透明な清酒が生まれた」という「鴻池伝説(木灰清澄法)」が伝わっています。「信じるか信じないかは、あなた次第」ですが……。
現代につながる清酒の醸造法を確立したのは、伊丹だったのです。
AI君さあ…もうちょっと漢字がんばって(AIイラストだよ)
次に、品質に裏付けられた評判と宣伝の効果も大きかったでしょう。
もともと天領で物資の集散地だった伊丹、1661年から五摂家筆頭の近衞家領となりました。
「近衞家御用達」や「将軍御膳酒」のブランドイメージ戦略も大きく寄与し、伊丹酒は格式の高い酒となったのです。
八代将軍徳川吉宗公の御膳酒となるだけでなく、赤穂浪士や幕末の国士たちにも愛され浮世絵にも描かれた「剣菱」。昭和初期に灘の御影に移転するまで、伊丹の酒蔵でした。
市章も近衞家に由来(伊丹市シティプロモーションサイトより)
また、酒造りに欠かせない水も決め手だったかもしれません。
伊丹の市街地は伊丹台地のへりにあり、台地の上で井戸を掘れば武庫川の伏流水が、台地の下で井戸を掘れば猪名川の伏流水が得られます。仕込み水は、これらの伏流水だったはずなので、酒造りに深くかかわる水質の項目がわかるといいですね。
実は、伊丹市の水道の原水は、武庫川、猪名川、淀川です。
水道法第4条「水質基準に関する省令」で規定する52項目の水質基準には、酒造りのキーとなる「硬度」や「鉄」が含まれています。したがって、原水の定期水質検査結果を比較すると、何かわかるかもしれません。
武庫川の硬度は比較的高い(伊丹市上下水道局ホームページ資料を加工)
https://minekyo.net/pages/7/ より
武庫川は酒造りに適した中硬度であることがわかります。猪名川も分類としては軟水ですが比較的高くなっています。
もっとも、現在の河川水と当時の伏流水の水質が同一なわけはありませんが……当時の仕込み水も淀川水系の他の街よりは硬度が高めであったとの類推はできそうです。
ちなみにですが、西宮の「宮水」は硬度が100を超えながらも、鉄は限りなく少なく酒造に最適とされています。
加えて伊丹は、西国街道、有馬街道、神崎港に近く交通に恵まれたことから、酒樽を馬の背に載せて運ぶコストも抑えられました。
■なぜシェアを落としたのか
こうして、品質と技術、ブランド力、水質に恵まれ、輸送コストも安価な伊丹酒は、京都、大坂、江戸で最も消費された酒だったのです。
そう、現在の「灘五郷 」のルーツとなった「新三郷 」が出現するまでは……。
2026年現在、伊丹市内の酒造メーカーは2社のみ、かつての酒都も今はよくある郊外都市のひとつです。
次回は、伊丹酒から覇権を奪った、あまりにも条件が良すぎる「江戸時代の臨海工業地帯」灘五郷 の秘密に迫りたい。
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(関連記事)甲類焼酎の割水は、軟水が良いみたい
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(参考)
・現在の酒造年度は、7月1日~翌年6月30日(1965年までは10月1日~翌年9月30日)
・日本酒の日とは?
・濁酒から清酒へ~伊丹酒興隆の歴史と共に~ | 伊丹酒造組合
・創業〜伊丹酒の発展(室町後期〜江戸中期) | 剣菱の歩み | 剣菱酒造株式会社
・「近世灘の江戸積み酒造業」(石川道子)https://www.city.kobe.lg.jp/documents/60534/tokusyu-nadanosyuzogyo.pdf
・ひょうご水百景 No.54 駄六川(伊丹市) ~“丹醸”伊丹の酒、駄送りから舟運へ~https://hyogo-waterscape.com/wp-content/uploads/2026/05/ae620f76582cc0f3782d6c74fac4035b.pdf
・産総研地質調査総合センター「天満砂礫層と伊丹礫層」https://www.gsj.jp/data/chishitsunews/85_04_04.pdf
・別紙 地理的表示「伊丹」生産基準|国税庁
・令和8年度水質検査結果/伊丹市上下水道局
・Q&A集|一般社団法人日本ミネラルウォーター協会(公式ホームページ)|普及|調査|研究