グローバルに活躍するビジネスパーソン(誰?)は、忙しいのです。
彼らは、ビジネスに有益な情報や新たな視座を得られそうにないブログなんて、読んでいる暇はありません。
よし今回は、そんなビジネスパーソンも思わずニッコリするような記事でも書いてみるか!
千葉県印西市、千葉ニュータウン区域内の開発予定地にいま、次々とデータセンターが建設されています。
あのGoogleも、日本で最初の自社データセンターを、ここ印西に設けました。
いまやこの地は、「世界のINZAI」と呼ばれて注目される、データセンター集積地となりました。
なぜ、印西なのでしょうか。
印西でデータセンターを運営する企業は、この場所の優位性を自社のホームページでアピールしています。
元々、千葉ニュータウンには金融機関の電算システムの立地があり、電力や通信といったインフラは整っていました。また幸か不幸か、開発が想定より進まず、広大な遊休地もありました。
また、成田空港からも都心からもさほど遠くなく、アクセスも悪くありません。
さらに、データセンターには不可欠な電力インフラも、送電線や変電所の新設増設が急ピッチで進んでいます。
いろいろと理由はありますが、各社とも共通しているのは、千葉ニュータウンが、「地盤の安定した台地上にあり災害リスクが少ない」という点です。
地震や水害に弱い場所は、データセンターに限らず避けたいですよね。
ちなみに、SCSKのホームページには「洪積台地」とありますが…現在では単に「台地」です。
「洪積(diluvial)」が、ノアの洪水を示唆するため、学術用語としてはふさわしくありません。用語の由来となった洪積世(Diluvium)も、現在では更新世(Pleistocene、約260~1.2万年前)といいます。
では、印西の地盤について確認しましょう。
印西の位置する下総台地や武蔵野台地、大宮台地、下末吉台地は、12~13万年前の最終間氷期の海成層を基盤としています。
このころの関東平野は、下末吉海進により海水に没し、島となった房総半島とバリアー島によって太平洋と隔てられた、古東京湾という穏やかで浅いラグーンとなっていました。
バリアー島とは、海流により運ばれた砂が堆積してできた、外洋からラグーンをバリアーするような島です。淡路島南東部、由良港の沖にある成ヶ島が挙げられます。(日本にはバリアー島は成立しないと考える研究者もいます。念のため)
当時の印西は、外洋と内湾との潮位の差で生じた海水の流れにより成立した潮汐三角州の扇端部にあり、周辺の貝殻が集まり堆積しました。木下貝層と呼ばれる、貝化石を多く含んだ地層は、こうして成立しました。
木下万葉公園(JR成田線木下駅から南東に500m)の木下貝層の露頭は、国の天然記念物にも指定されています。
木下貝層の下層では、地下水の作用により上層の貝化石から溶出した石灰質が固結した層ができました。木下でのみ見られるこの固結層は、石材に恵まれないこの地域では大変重宝されました。
どれくらい重宝されたかって?興味深い活用例をお見せしましょう。
Googleのデータセンターから北東2km、上宿古墳に来ました。
公道から見える場所に案内板はあるものの、古墳自体は私有地にあるため、見学の際は駐車場用伸縮門扉を開けて入るので、少し緊張します。
門扉からは美しい竹林の中を歩くと古墳に着きます。
施錠されていないので、石室内に入ってみます。
ご覧ください。木下貝層の固結層を切り出して組み上げた石室です。見事ですね。
関東でよくみられる大谷石のように、表面が風化し簡単に剥離するのかな、と思われるかもしれませんが…貝殻をこれでもかと圧縮したような堆積岩です。
貝化石は鋭利で、指先で触れると痛いです。この立派な石室に葬られたのは、どんな人物だったのでしょうか?ロマンが広がります。
木下貝層を基盤とする印西の地盤は、関東平野の中では比較的強固であることがわかりました。
余談ですが印西市の近くには、「ゆれにくい街」をアピールする自治体もあります。
というわけで、グローバルに活躍するビジネスパーソンのみなさま、ここまで忍耐強くお付き合い頂き、ありがとうございました。
みなさまに有益な情報と思われる情報を提示したいと思います。たぶん、世界初公開の資料です。それではどうぞ!
(参考)
・印西付近にデータセンターを設置する各社の公開情報
・通常工期を大幅短縮! トンネル掘削技術の粋を集めた地中送電線シールド工事(https://emira-t.jp/topics/21075/)
・増田富士雄「古東京湾のバリアー島」『地質ニュース』458号、pp.16-27