※こんなポッドキャスト番組もやってるよ
◆激安ウイスキー「凜」が背負う壮絶で華やかな血統
YouTuberに散々ネタにされ、飲み比べ企画では必ず “地雷枠” として登場する。そんなイメージがすっかり定着したウイスキーがある。
その名も、“キングウイスキー「凜」<セレクト>”(宝酒造)。

しかし、このボトルをよく見ると、妙なことに気づくはず。
ラベルには堂々と 「KING WHISKY」 のブランド名、「SINCE 1919」表記、そして「TRIPLE CROWN」 の誇らしげな紋章。
激安ウイスキーのはずなのに、やけに”歴史”と”ブランド”を語りたがるのだ。

「いやいや、さすがに盛りすぎでしょ」と思うかもしれない。なにせ、日本初のモルトウイスキー蒸溜所、サントリー山崎蒸溜所の完成は1924年だ。

だが──この“キングウイスキー「凜」”のルーツをたどると、本当に“王者”だった時代がある。
むしろ、日本ウイスキー史の、ど真ん中にいたブランドと言っていい。
ここから先は、あなたがまだ知らない「凜の血統書」をめくる旅だ。
◆激安ウイスキーの代名詞、超合理主義の権化たる「凜」
まずは現在の姿を再確認しよう。いや、もういいよ……とか言わないでさ。
結論から言うと、「凜」は「ウイスキーの皮をかぶった甲類焼酎」だ。推定される「凜」の中身は、輸入したバルクウイスキーが11%、宝酒造松戸工場が誇る「スーパーアロスパス式蒸留機」で作られたブレンド用アルコールが39%、そして割水50%だ。
いうまでもないが、ブレンド用アルコールの原料は海外産の粗製モラセス(糖蜜)アルコールだ。これを、スーパーアロスパスで95%程度まで蒸留を繰り返して作る。このため原材料表記は、「国内生産のアルコール」となる。
(松戸工場のスーパーアロスパス式蒸留機、宝酒造で最大かつ最新鋭機にして、高さ約35m、国内有数の蒸留能力を有する)

※サントリートリスやブラックニッカクリアなどに添加されているアルコールは、主にとうもろこし由来のグレーンスピリッツ
つまり、「凜」(あるいはその他の激安ウイスキー)は、ウイスキーというよりも甲類焼酎に寄せることで、戦略的な価格を実現しているのだ。
ちなみに、原酒は10%以上でなければ、日本国内で「ウイスキー」を名乗れない。名乗るな
だが、ここから歴史を遡ると、話は一気にドラマチックになる。
◆1943年:キングウイスキーは“本格ウイスキー四天王”の一角だった
戦時下の1943年4月1日付官報第4864号の38、39ページには、驚くべき記述がある。

サントリー、ニッカと並んで、宝酒造のキングウイスキーが、当時の酒税法における級別で最上位の、一級ウイスキーとして認定されているのだ。
※藤沢駅前に蒸溜所があった東京醸造(トミーウイスキー)は1955年倒産
現在の凜のイメージからは想像できないが……宝酒造は当時、日本のウイスキー産業の中心にいたメーカーだった。
では、蒸溜所はどこだったのだろうか?
官報には「生産地:東京府」と記載がある。おそらく、1929年に買収した大正製酒の王子工場(北区堀船3丁目7)と考えて間違いない。この大正製酒は自社ブランドの「アイデアルウイスキー」を1920年から製造していたので、製造設備は確実に王子にあった。また、キングウイスキーの商品には、”OJI DISTILLERY TOKYO JAPAN”と記されたものも。
「SINCE1919」の謎だが、大正製酒よりも前に合併した帝国酒造のイミテーションウイスキー(ウイスキー風の模造酒)、「キングウイスキー」が発売された年だ。
宝酒造王子工場の跡地は住宅団地となった。
◆戦後躍進する大黒葡萄酒と劣勢のキングウイスキー
1947年、傍系のワイン・ブランデー製造会社である大黒葡萄酒が、戦前に福島県に建設した白河工場を買収し、戦後のキングウイスキー製造を開始した。
しかし、同年の独占禁止法の成立施行に伴い、宝酒造から独立した大黒葡萄酒のオーシャンウイスキーは、キングウイスキーを追い抜く存在へと成長する。
その勢いは、第一次ウイスキー販売戦争でサントリーの対抗勢力となるほどであった。かつての弟分が兄貴を置き去りにする、という歴史の皮肉だ。
対するキングウイスキーは、徐々に存在感が薄くなる。1970年代の業界座談会(サントリー、ニッカ、オーシャン、合同酒精、東洋醸造)にも呼ばれなかった。
そして2003年、白河工場は閉鎖された。跡地は一時、東日本大震災の被災者向け住宅となったものの、再び更地となった。
◆そして突然の復活──420万円のシングルモルト「白河1958」
2022年に宝酒造は、白河工場で1958年に蒸留されたという極めて古い原酒を使用したシングルモルトウイスキーを、海外1430本、国内70本限定で発売した。
その名は、「白河1958」
アルコール分49%、700mlで、お値段は驚きの420万円(税込462万円)!

激安ウイスキーの代名詞となった「凜」とは、あまりにも対照的。
しかしこの「白河1958」こそ、キングウイスキーという「王の血統」が現代によみがえった瞬間だ。
しかし、「KING WHISKY」「SINCE 1919」「TRIPLE CROWN」の誇らしげな文字は、ボトルのどこにもない。
◆そしてふたたび現在──
激安ウイスキーとして擦られ続ける「凜」。
しかしそのラベルには、かつて日本ウイスキー史の中心にいたブランドの名残が刻まれている。
「SINCE 1919」「TRIPLE CROWN」「KING WHISKY」
これらは決して虚飾ではない。むしろ、「凜」は日本のウイスキー史の「失われた王家」の末裔なのだ。
次に「凜」を手に取るとき、そのボトルの“安さ”の向こうに、サントリーやニッカと肩を並べた激動の時代と、白河工場の幻の原酒──壮絶で華やかなファミリーヒストリーが綴られた、100年以上続く血統の影を感じてもらえたら嬉しい。
感じたところで、美味しくなるわけではないが……だからって味の素入れるのは
(余談)
凛の原酒のお値段をざっくり推計してみた。
角瓶でも混ぜているのかな?(んなわけない)
宝焼酎よりは粗利は大きいのかな?

※「凜」の次は、「香薫」でしょ!
amazingkantoplain.hatenablog.com
※こんな記事もあるよ
amazingkantoplain.hatenablog.com
※ウイスキーに関連したポッドキャスト番組は他にもありますよ!
(参考)
・https://kitasangyo.com/list/whisky_HS.pdf
・キングウイスキー「凜(りん)」<セレクト> 新発売 | 宝酒造株式会社
・「宝焼酎」のおいしさを支える“真っ白なキャンバス”とは。限りなくピュアなアルコールづくりへのこだわりを探る! | 宝ホールディングス株式会社
・おかげさまで宝焼酎は発売100周年https://www.takara.co.jp/environment/report/pdfs/2012/p9-12.pdf
・酒類の原料原産地表示制度がもたらす国産ウイスキーの課題と闇 : くりりんのウイスキー置場
・File:NDL2961369 官報 1943年04月01日.pdf - Wikimedia Commons
・「ウイスキーにおける起業のきっかけ、そして継続について 摂津酒造はなぜウイスキーを造らなかったのか」2017 年11月28日 森田規代子 https://whiskyconnoisseur.jp/consys/wp-content/themes/coni/assets/img/thesis_master_morita.pdf
・堀船郷土史平成増補版 堀船郷土史を語る会https://fukushoji-horifune.net/pdfdocs/expansion.pdf